ブログ29「「dark side of wiki」」

2019/12/04

7月の蒸し暑いある夜。

 

ベタつく汗と、どんより重い空気が体にまとわりつく。頭痛の前兆だろうか、目の奥が締め付けられるように重く、おぼろげに光る満月のほのかな月明かりさえも煩わしい。

 

嫌な夜だ。こんな日は一杯あおって早めに寝るに限る。

 

所用を終えた僕は、裏通りの細い路地を重い足取りで歩いていた。

 


ある地点に達した時、僕の視線が何かを捕らえた。

 

ヤツだ。

 

僕はすぐに目を背けた。どうか見間違いであるように祈る。しかし恐る恐る目を向けた僕の視界にいたのは間違いなくヤツだった。


会うのは何年ぶりだろうか。


 

この世で一番会いたくない奴と問われれば、僕はそいつの名前を即答するだろう。その存在を受け入れた僕の足は震えた。

 

もしかしたら僕の事を待ち伏せしていたんだろうか。

 

あいつが僕の事をどう思っているのか分からないが、僕はあいつが嫌いだ。
 

べつに物理的な攻撃をしかけてくる訳でも、ロジカルに僕を追い詰める訳でもない。
悪い奴ではない事は分かっている。


そいつが放つ不穏な空気。不快な動き。説明しようがないが、その存在の全てが嫌いなのだ。


 

あいつは僕に気づいているはずなのに、こちらを向こうとしない。細い道の真ん中で何処かを見ている。



「・・・・・チッ・・シカトか」


 

そのまま脇をすりぬけようと思うが、奴の動きは全く予測がつかない。僕はその場から一歩も動けなかった。

 

そして、ヤツは黒い目をギラリと光らせて僕に言った。


 

(よう、久しぶりじゃねえか)


 

 

「dark side of wiki」

 

過去に起こったヤツとのある諍いは、僕に強烈なトラウマを植え付けていた。

 

一人暮らしをしていた頃の話だ。

 

来客の予定があった僕は夜中に部屋の掃除をしていた。ハタキをかけ、床やガラスをみがき、台所と風呂場を掃除した。

 


そして、ようやく終わった部屋を満悦しながら見回し、冷蔵庫からビールを出そうとした時、僕の視界に一瞬なにかが過った。

 

掃除し忘れたのか?と思ったが、汚れなどではないことは分かっていた。僕は音を立てないように冷蔵庫の扉を閉め、


 

ゆっくりと視線を向けた。


 

やはりそうか。先程からチラチラ視界の端に映っていたのは、やはりお前だったのか。

 


薄々、気付いてはいたが実物のヤツを目の前にした僕は尻込んだ。かなりの大物のようだ。


その風格は芸能人に例えると"中尾彬"くらいだろうか。かなりのキャリアをうかがわせる。


ただ無目的にその存在感を垂れ流しているヤツは、なんの変哲もない僕のワンルームの中の明らかな異物だった。

 

僕の心臓はすごい勢いで拍動し始めた。

 

奴から視線を外さないようにしながら辺りを探った。


硬い何かが手に触れた。


 

布団叩きだ。


 

プラスチック製のそれは、奴と戦うにはいささか不向きなような気がしたが、今のところ手元にある武器はそれくらいしかないようだ。


 

僕は覚悟を決めた。


 

「やるなら今しかねぇ!」by 長渕剛  feat.田中邦衛


 

テニスのサーブを打つような体制で狙いを定めた。手がブルブル震える。

 

一発勝負。逃げられたら終わりだ。


 

そして奴の"触角"がピクリと動いた瞬間

「ウオオオオオオオオ!」と雄たけびを上げながら、渾身の力を込めて布団叩きを振り下ろした。


明らかに力みすぎだ。布団叩きは根元から折れ、壁に穴が空いた。


 

クソッ、しくじった!


 

奴は!?どこだ?冷蔵庫の後ろに逃げ込みやがったか?周辺をひっくり返して探した。せっかく掃除した部屋がまた荒らされていくが、そんなの関係ない。

 

その時、後ろからカサッと音がした。

反射的に振り向くとヤツは反対側の壁にいた。


いつの間に、そんな所へ!なんてすばしっこいヤツだ!

次こそ仕留めなければ。次こそ仕留めなければ、部屋の中がメチャクチャにされて(自分で)しまう。


 

次のヤツの動きを予測するんだ。奴の選択肢は二つ。またコソコソ逃げ回るか、あるいは僕に攻撃をしかけてくるか。
腕力勝負の展開になれば、僕の方がわずかに分がある筈だ。

 

だがヤツが隠し持っている恐るべき能力を僕は知っていた。

頭の中にフレーズがリフレインする。


 

『君と出会った奇跡が~、この胸にあふれてる、きっと今は自由に空も飛べるはず~♫  』by スピッツ

 


そう、ヤツは飛べるのだ!そんな空高く飛べるのかは知らないし、実際に見たこともないが、こちらに向かって飛んでこられたら恐らく僕は卒倒してしまうだろう。


 

落ち着け!

 


僕は目を閉じて深呼吸した。頭の中で奴の動きをイメージする。


1、ヤツは前にしか進めず、後ろを振り向くことはできない。

2、行動パターンは単純だ。おそらく脳みその量は僕と同等か、僅かに多いくらいだろう。

3、攻撃力は極めて弱い。僕に甚大なダメージを与える程の武器は持っていない。もしかしたら「噛み付く」事が出来るのかもしれないが、そんな話は今まで聞いた事はない。


 

僕の意識はどんどん研ぎ澄まされていき、そしてある地点でピークに達した。


 

※鍛錬を積んだアスリートは、集中力がある閾値に達すると「ゾーン」と呼ばれる領域に入る。そこでは自分以外の全ての動きがスローモーションに見えるという
 



ゆっくり開眼した''トップアスリート"の僕は、既に「ゾーン」に入っていた。

 

簡単なことだ。僕は追い込まれれば直ぐにゾーンに入る事ができる。そして、メンタルが極めて弱い僕はすぐに追い込まれるのだ。

 

奴の次の動きが手に取るように分かる。その異常に長い触角、何本あるのか知らないが、その超キモい足の一本一本にいたるまで、僕の神経が張り巡らされた。

 

僕は折れた布団叩きの断片を拾い上げ、ゆっくりと奴に近づいた。

 


※注:ここから先は、食事中の人や心臓が悪い人、クレーマーの方は読むのをお勧めしない。これから展開される身の毛のよだつ惨劇、そして目を覆いたくなる恐ろしい情報は読み終わったあなたの箸を、あるいは心臓を止める事になるだろうから。

 



 

僕は布団叩きを、今度はテニスのバックハンドの姿勢で構えた。リラックスしている。非常にいい状態だ。

 


僕はそう。ケンシロウだ。

 


僕に目をつけられた時点で、もう結果は見えている。


 

お前はすでに死んでいる。」

 

 

そして僕は狙いを定めると、ホワチャ~ッ!!と奇声を発しながら、躊躇なく怒りの鉄拳(布団叩き)を奴のボディの一点に叩き込んだ。


 

命中した!これ以上ない「当たり」だ!

 


しかし、そのあと僕を襲ったのはハッピーエンドなんかではなく、恐ろしい惨劇だった。

 

 

・・・


 

なんと、ヤツの体はバラバラに分裂して、辺り一面に飛び散ったのだ!!

 

どういう角度でヒットすればそうなるのか、奴の身体の構造がどういう風になっているのか分からないが、一部は台所へ、また一部は僕の頭へと。ゴキ◯リの雨が部屋中に散らばった!
 

ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!
 

 

いきなり形勢が逆転した!パニック状態だ!あるパーツにいたっては、まだ蠢(うごめ)いてる輩までいらっしゃる!

 

まるで、ターミネーターの2に出てくる、あの、銀色の警察官の、ドロドロがバラバラになって、またくっ付いて、そんでまた警察官になって、走って追っかけてくる、あれ・・・あいつみたいだ!(語彙力崩壊中)


 

ウワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!


 

僕の悲鳴は建物中に響き渡り、隣の部屋から「うるせえ!!」という怒号と壁を叩く音が聞こえた。


 

(つづく)

 




 

いや、つづかない!

 

こんな話、続くわけがない!うっかりここまで読んでしまった人はこう思っているはずだ。「こいつ、なんの話してんだ!?」と。

 


しかし、このままでは終わるわけにもいかない。この機会にこのトラウマを克服しなければ。


 

昔、壁にくっ付いていたゴ◯ブリを普通に掴んで、その場で握りつぶした奴がいた。顔色一つ変えず、虫ケラのように虫ケラを握り殺す男。世界中でそんなマネが出来るのは、おそらく赤ん坊かランボーくらいなものだろう。He is Dangerous guy!それこそ男の中の男!周りの女子は「男らしい!」と賞賛していたが、その日は奴のそばには誰も近づかなかったことは言うまでもない。

 

そんな男になりたいとは露ほども思わないが、いつまでもヤツが出現する度に、キャーキャーと女子のように逃げ回っているわけにもいかない。父親としての沽券にも大いにかかわる。

 



 

戦いに勝つには、まずは相手を知ることから始まる。とりあえず僕はスマホの検索欄に入力した。

 

ゴ・キ・ブ・リっと。

 

ウィキペディアから調べてみることにする。これ以上の百科事典はあるまい。その情報量は信頼に値する。

ページを開くと、概要や名称などのいくつかのカテゴリーがあり、その上には早くもヤツの写真がデカデカと掲載されている。

もうこの時点で気絶しそうだ。

 

 

『概要』

世界に生息するゴキブリの総数は1兆4853億匹ともいわれており、日本には236億匹(世界の 1.58%)が生息するものと推定されている。

 

「な、なんて数だ!1兆4千億匹だって?人口の何倍ですか?もしかしたら、地球は既にヤツらに支配されているのかもしれない」

 

 

 

『名称』

「ゴキブリ」という名称は、明治に出版された日本初の生物学用語集に脱字があり、「ゴキカブリ」の「カ」の字が抜け落ちたまま拡散・定着してしまった事に由来する。

ゴキカブリとは、御器(食器)をかぶる(かじる)」事から「御器囓り(ごきかぶり)」という。

 

「な、なるほど、そうですか」

 

 

 

『生態』

最大種は南米に生息するナンベイオオチャバネゴキブリで、体長110mm、開長200mmに達する。

 

「デカっ!南米に生まれなくて良かった!」

 

 

そして、進化史、生態、分類と続き、ある場所でスクロールする僕の指が止まった。

 

 

 


『食用』


 

・東アジアでは油揚げが一般的である。ゴキブリの唐揚げを食べた人の話によれば、食味はシバエビに似ており、食べられない味ではないとのことだ。



 

「お~い!食うの?食べちゃうの?油揚げが一般的だって?シバエビだって?カラッと揚げて香ばしくいただきま~す。って、お~い!それゴキブリだぞ!キャー!助けて~!」

 

 

そして震える指で、さらに下にスクロールしていく。もう心が折れそうだ。

 

 

 

・2001年にイギリス人のケン・エドワーズによって、1分間に36匹のマダガスカルオオゴキブリを生食いするという世界記録が樹立されている。

 


「コラ~!ケン!生はダメだろ!カラッと揚げないと美味しくないじゃないか!」(倫理観、すでに崩壊)

 

 

 

・2012年5月2日にアメリカ合衆国・フロリダ州ディアフィールドビーチで開催されたゴキブリ大食い大会でゴキブリを約30匹食べた優勝者が死亡する事故が起きている。この優勝者は同大会でゴキブリを食べる直前にミミズを約30匹、ヤスデを約100匹食べていた。

 

「出た!ゲテモノフードファイター!ギャル曽根もビックリ!って、バカ!そりゃ死ぬわ!なんつー大会だ!外人はバカなのか?」

 


 

 

・・・・・な、なんか下にスクロールすればするほど情報がエゲツなくなっているような気がする。明らかに悪ノリだ。

おい!ウィキペディア!なんつー百科事典だ!知りたくない情報が次々と飛び込んでくる!もう、やめろ!頭がおかしくなりそうだ!

 

 

しかし、画面を閉じようとした僕の目に飛び込んできた驚愕の事実は、僕を更に震撼させた。

 

 

 

 

『ゴキブリは頭を切り落としてもしばらくの間は生き続ける。』

生き続ける時間帯は、9日であったり、1 - 2週間であったり、27日だったりと、さまざまな主張がなされる。また、このあとに「その後、餌が食べられないために餓死する」と続く場合がある。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

僕は静かにスマホの電源を切った。

 

 

なんて、・・・なんて話だ。頭がなくても生き続けるだと?最終的に餓死って、食べる時以外は頭いらないって事か?ヤツらには脳がないのか?そんで、9日とか、27日とか、なぜ9の倍数なんだ?全く意味が分からない。

 

しかし一つ言えるのは、何かあるたびにチマチマと頭で考える人間なんかとは生命力が違いすぎる!とても人類が太刀打ちできるようなシロモノではない。
"バケモノ"とはコイツらのことだったのか!


そんな首なし芳一が部屋の中にウヨウヨ現れた日には、マイクタイソンだろうと、マイク真木だろうとガタガタ震えながら両腕を抱えて泣き叫ぶはずだ!



トラウマは、

克服されるどころか、倍増して僕の心に刻印された。


 

・・・




冬の夜 猫毛も逆立つ ウィキペディア
 



 

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