ココロのリハビリ23「高円寺」

2018/11/19




上京して高円寺の叔母の家に下宿していた僕は、学校の帰りに商店街のレンタルビデオ屋でバイトをしていた。

大体いつも同じメンバーだ。


フリーターのNくんは僕より2つ年上のフリーターで、あまり仕事はしない。
いつも店のテレビで映画を観ながら客やスタッフとおしゃべりしており、そっちの方がメインの仕事のようだった。


店長の前でも終始ダラダラしているが、キレイな女性客が来店すると、人が変わったように積極的に動き始めるナンパ野郎だ。


サブカルチャーに造詣が深かったNくんから最新のクラブミュージックやロック、
キューブリック、コッポラ、デビッド・リンチ、ジム・ジャームッシュ、テリー・ギリアム、マーティン・スコセッシ、黒澤明、など新旧の映画の話をしてもらった。レコード屋もなかった田舎から出てきばかりの僕には全てが新鮮だった。


僕達はいつも店のビデオやCDを勝手に無料レンタルしては感想を言い合い、店に無いものは店長に頼んで発注してもらったりした。



レンタルビデオ屋は僕たちの宝庫だった。

 



ヘヴィメタのボーカルKは、全身タトゥーだらけで、顔や耳にもピアスや安全ピンやら、クギみたいなのまで刺さっている。顔のどこの部分が外れそうで補強しているのか知らないが、頭のネジは全部外れているらしく、いつも何を言っているのかわからない。

外に立ってるだけでお巡りさんから職質を受けるタイプの、どちらかというと宇宙人寄りの人間だ。


受付に立っていると、その風貌から客は一瞬たじろぐが、ディズニースタッフばりのスマイルで更に怖がられる。


Kはいつも金が無く、毎日いろんな人にお金貸してと言っていた。

バイトに初めてきた日も、3日間何も食べておらず今日食べれないと死んでしまう、と言うのでポケットに入っていた小銭(合計40円程)をあげると「ありがてぇ!」と言って、そのまま外に飛び出して行った。
しばらくすると、満足そうな顔をして帰ってきたが、40円で何が買えたのだろうか。

バイト仲間からは乞食と呼ばれていた。


 


アニメとAVのエキスパートはオタク族の大学3年生O(童貞)だ。


基本的にお風呂には入らない風習らしく、フケだらけで、いつもスッパイ匂いがする。

ブツブツと独り言を言っていて、あまり他のスタッフと会話することはないんだが、アニメの話になると鼻をフガフガ言わせながら興奮して喋り出す。


特に、18禁と書かれたカーテンの中は彼の聖地だった。

僕たちが勝手にいじくって適当に戻そうもんなら「なんで、女子高生の所に人妻のビデオがあるんだよう!!」とキモい怒り泣きをするので、みんなから恐れられていた。


普段はおとなしいが、観たいビデオ(AV)があると店長に「頼むから入荷してくれ!」と直談判するなど、時に熱きパッション(性欲)を弾かせる事もある、さわやかな好青年だ。


 


バックヤードの奥の薄暗い所で、いつも帳簿をつけてるか、死んだように寝ている店長らしき人は、ほぼ毎日店にいた。


存在感が無く昼間も夜も同じところにいるので、本当は呪縛霊なのではないか、と噂されていた。


たまに外に出ると、フラフラしながら帰ってきて、目を押さえながら「眩しくて目が焼けるようだ。」と言っていたので、たぶんドラキュラの末裔だったのではないかと思われる。

 



そんなマンガみたいなヤツら現実的にいるのかと思うが、僕のような無個性な人間の方が目立つ程、当時の高円寺には普通に沢山いた。


もちろん、そんな動物園のような店は上手くまわる筈もなく、程なくして本店からテコ入れが入った。



ある日、出勤するとドラキュラ店長はおらず、本店から代わりに来たという新しい店長がやってきた。


やけに声が大きいハキハキとした体育会系の若い新店長は、これからは接客面を強化すると言い、ぬるま湯状態だった店舗の雰囲気は一変した。


NくんやヘヴィメタKや他のバイトの人達は、バルサンに焚かれたゴキブリのように、逃げるようにいなくなった。
Nくんに、時給1700円のレンタルビデオ屋を見つけたから一緒に行こうよ、と誘われたんだが怪しすぎたので断った。



最も遅刻欠勤が多く、一番早く辞めそうだった僕は何故か残っていた。


新店長の顔には「なんで、こいつが残ってるんだ!?」と書いてあったが、天然のKY&BK(空気読めない&バカ)だった僕には、店長の顔に書いてある文字を読み解く能力はなく、またそんな事以上に辞めるわけにはいかない、どうしようもなく浅はかでのっぴきならない事情があった。


慢性的に彼女がいなかった僕は、新しい店長が来る少し前に入ってきた女子大生のSちゃんの事が気になっていた。
いや本当の事を言ってしまえば、Sちゃんの事ではなく"Sちゃんの豊満なボディ"の事が気になっていた。(最低なヤツ)


仕事中は、用もないのにSちゃんの周りをウロウロまとわりつき、シフトも同じ日になるように勝手に調整したり、休みの日に出掛けて行き、Sちゃんが帰る時間を見計らって「出待ち」をするなど、ストーカーのようなアプローチを繰り返していた。



そんなナイーブな僕の心情など知らない新店長は一方的に改善策を打ち出していった。


出勤するとまず、店の端っこに立ち「いらっしゃいませ!」「ありがとうございます!」と大きな声で挨拶をし、声が小さいと何度もやり直させる「声出し練習」が始まった。


居酒屋じゃないんだから、レンタルビデオ屋でそんなデカイ声で接客されたら逆にうるさがられるだろうが、体育会系の新店長は脳ミソまで筋肉で出来ていたのだろうか。


しかし、生まれてから走ったこともないようなサブカル系の人達が、そんな体育会系のノリについていけるはずもなく、声出し練習をしているのは数日後には、一番年下の僕と新人のYくんだけになっていた。

 



色情狂とアルパチーノ


ある時、棚のビデオの掃除をしていると、Sちゃんから「ナベくん、がんばってるね!」と声をかけられ「そんな事ないよう」とヘラヘラ笑いながら答えた。


すぐにSちゃんは店長に呼ばれて奥の方へ行ってしまったんだが、僕は「そんな事ないよう」の「よう」の口のまま、その時ハタキを掛けていた「ゴッドファーザーPartⅢ」のアルパチーノと目が合った状態でフリーズしていた。


その間約数秒、僕の眉毛がピクッと動いたほんの0.000何秒の間、頭の中の(自称)スーパーコンピュータが、Macを立ち上げる時に出る「ジャーン」という音と共に立ち上がると、ものすごい勢いで計算し始めた。


「頑張ってるね!」≒「カッコいいね!」∵ (-9){(πi)+(πi)²/2!+(πi)³/3+(πi)⁴/4!+8(πi)³ +(πi)+(目が合う頻度)⁵/5z+(πi)⁶/6r+(πi)⁷/7!+(πi)⁸/8!+(πi)⁹/9!+(πi)⁴+(接触回数)¹⁰/10!+ (パイi) ⁷+(πi)³/3+(πi)⁴/r+(πi)⁷/7!+(πi)⁸/8!+(πi)⁹/9!+オッ)+(パイi)¹⁰/1+ 4+(πi)¹⁰+(πi)³+(πi)⁴/5z+(πi)⁶ +/7!+(πi)⁸/8!(πi)⁹/.......}

=「イケる!」



・・・・何が「イケる!」のか知らないが、
最終的に「頑張ってるね!」=「イケる!」という中学一年レベルの答えに落ち着いた。


その時の僕に、「頑張ってるね!」≒「カッコいいね!」の段階で大きな間違いを犯している事を教えてくれる人は誰もいなかったが、ビデオのパッケージの中で自信満々な顔をして僕を見ていたアルパチーノは「イケるだろ!!」と言っていた。


そんな大事件(僕にとっては)から、僕は顕著に張り切りだした。




遅刻や欠勤はめっきり減り、外の自転車整理などをやる僕を見てバイト仲間は気味悪がったが、僕にはSちゃんしか見えていなかった。



しかし、原動力が下心しかないモチベーションがいつまでも続くわけがなく、ついに僕だけになってしまった店長とのマンツーマンの「声出し練習」は、次第に「ふざけ」の割合が強くなっていった。裏声で「いらっしゃいませ~」といってみたり、金八先生のマネをして「ありがとうございました~」と、最終的になんの練習なのかわからなくなっていった時、客から「うるさい!!」というクレームが入り、程なく終了した。


体育会系の新店長の改善プランは無残な結果に終わってしまった。
そしてまた以前のようなダラダラした店に戻ってしまうと、あっという間に店の閉店が決まり、Sちゃんもオランダに留学すると言って辞めてしまった。




恋も仕事も結局なんの発展もないままだったじゃないかよ!と思いながら、「ゴッドファーザーPartⅢ」を観てみると、はしゃいでたヤツ(アルパチーノ)が地獄に落ちるというストーリーで、救いようのない結末に笑うしかなかった。
パッケージの中のアルパチーノから「ご愁傷さま」と言われているようで、本当に悪いヤツだな!と思った。
 

 



携帯電話もスマホもなかった90年始めの高円寺は今より少しだけ原始的で、個性が強すぎたり、使い物にならない若者が掃き集められるゴミ箱のような場所だった。


売れないバンドマンや芸人、絵描き、役者の卵、オタク、チンピラ、外人、浮浪者


みんな一様に金はなく、落ちている小銭を探すようにウロウロ歩きながら、「知りたい」「欲しい」「食べたい」「売れたい」と、今より少しだけシンプルで純粋な欲望が渦巻いていた。



元気かなと、それきり会っていないあの頃の人たちを思い出すことはないが、生きていればいいなと思ったりする。

 

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辞めてから何年か経ったある日、新宿のライブハウスでヘヴィメタKに偶然会った。
前よりも顔の部品が増えていたKは、僕を見つけると「ナベちゃ~ん、お金貸して~!」と言って、昔のように笑いながら駆け寄ってきた。



僕はポケットの小銭を上げ、ちょっとホッとした。


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